投票にあたって参考にしてほしい、各種ボートマッチの比較について(後半)

前記事投票にあたって参考にしてほしい、各種ボートマッチの比較について(前半)

各ボートマッチ政党位置まとめ。(注意:google docs が開きます。)

ボートマッチで扱いが異なる争点

先の記事で整理した各ボートマッチシステム(VM)の技術的な点に加えて、各政党の争点がどのように扱われているいるのか見てみよう。
この選挙で重要と思われる、つまり各VMで共通して採用されている争点について、各政党の回答がどのように違うのか、比較してみた。
結果、意見(争点態度)の違いが目立つのは日本維新の会である。
たとえば、消費税引き上げの是非について、日本版VMでは「どちらでもない」と中立的な立場だ。また毎日えらぼーとも候補者の分布で見ると、税率引き上げ派と先送りはが半々程度で、実質的に中立的といって良い。一方、日本政治.comVM(以後日本政治と略記)では消費税増税に「賛成」となっている。
私が手伝っている日本版VMでは、原則的に政党本部宛のアンケートにより回答を確認しており、この回答はアンケートのとおりである。どうして日本政治が賛成と判断したのかはよくわからないが、利用する上で少し注意が必要かもしれない。
もっとも、直接アンケートで確認すると比較的態度表明の姿勢が弱くなるのは、態度を曖昧にすることでより多くの支持を獲得したくなる政党にとってやむを得ないことである。結果として、VMシステムの主催者側で態度を決定するほうが政党ごとの違いは出やすい傾向になる。
その点が如実に現れたと思われるのがTPP参加への態度である。アンケートに基づく日本版VMでは、民主、自民、公明が「どちらとも言えない」という中間的な立場である一方、日本政治のシステムでは、民主が賛成、自民、公明が「反対」と明快な態度と設定している。

政党内部での争点態度分布

先に、維新の会の意見の違いが目立つと書いたが、そもそも、太陽の党との合併前後の様子からするに、維新の会が政党組織として安定した争点態度をもっているとは必ずしも言えない可能性もある。つまり、政党が政策的立場について安定的な視点を持っているというボートマッチの前提が満たされているとは言いがたいのかもしれない。もっとも、政党内部で、政党の公式見解と政治化個人の意見分布が異なる問題は、大きな政党になれば多かれ少なかれ存在する問題である。
特に、今回のボートマッチシステムを比較すると、毎日方式では、候補者データの意見分布を政党の政策位置(制作に対する考え方)としているために、日本版VMによる政党の公式見解との意見分布の違いが観察できるのは面白い。

たとえば、憲法改正について見ると、日本版VM、つまり政党の公式見解としては、民主党が「どちらと言えない」と中立的である一方、毎日の回答では改憲賛成派が58%、反対派が29%と、賛成派が多数を占めていることがわかる。また、公明党は9条改正には慎重でありつつも、政党内部で改憲派護憲派がいると思われていたが、今回の毎日調査では、87%もの公明党候補者が改憲に賛成というのは個人的に少し意外な点もあった。

望ましくない争点、見直されるべき争点

さて、3つのVMシステムを合わせると、65争点、重複するものを除いても50以上の大量な争点が存在することになる。その中には、政党や候補者を選択する上で望ましくない争点と考えられるものも存在する。
たとえば、毎日の「衆院選後、どのような政権が望ましいと思いますか?」という質問を、必死に戦っている候補者本人に聞くのは、ボートマッチの争点という以上に、候補者アンケート調査の項目として不思議な項目である。
さらに、「政府が沖縄県尖閣諸島を国有化したことを評価しますか、しませんか。」という設問も、純粋に政策的立場を尋ねる目的からすると望ましくない。国有化に賛成するが、政府とは立場を違える候補者や支持者が著しく回答しにくい。政府を含めて、なるべく特定の立場に関連付けた質問の仕方は、ボートマッチとして避けておくべきである。
同じように、「政権公約マニフェスト)通りに政策を実行しないことをどう思いますか。」という設問も、筆者には狙いがわからない。政策というのは常にその必要性と実行可能性が流動するものであり、その事自体の評価が難しいという問題以上に、そもそも与党になる予定が全くない政党にそのことを尋ねること自体が、あまり意味のないことのように思える。約束したことを実行することは規範的に望ましいことであり、それに対する見解を尋ねる意図は調査としても望ましくないだろう。

設問の長さについて。

毎日の調査項目は全体的に長い。例としては、「政府は日米関係を重視し、沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場を同県名護市辺野古に移設する方針ですが、県や地元は反対しています。移設先についてあなたの考えに近いものを一つ選んで下さい。」がある。これは、背景知識が乏しい回答者(主に有権者だろうが)にも回答しやすくしている点ではやむを得ないだろうが、世論調査の専門家からすると、意見誘導を行なっているという批判が出てくることは必須である。
一方、日本政治の設問はどれも簡潔でわかりやすい。ただ、幾つかの質問についてはもう少し細かく定義しないと、誤った印象を与えかねないこともある。たとえば、「外国人にも参政権を与えるべきである。」という争点は、一般に地方参政権付与が議論されているが、この表記であると国政への関与も可能なように受け取られかねない。(もっとも、これは私の理解なので、ひょっとしたらさまざまなところで国政を含めて議論されているかもしれないが。)
手前味噌になるが、日本版VMは政策の専門家が争点を決定しているために、限られた文字数である程度正確に特定の対立する政策を表記していると思う。しかし、そのことが同時に争点の難しさにつながっていることは否定出来ない。これは、今後に向けて何とか改善していきたいと考えている。

まとめ

いろいろな投票支援システムが今後も出てくるだろうと思われる。必ずしも政策(だけ)に基づく支援システムでなくても良いが、今日では政策に基づく投票が合理的であるとされるので、今日ではさまざまなボートマッチシステムが開発されている。
それらの争点設定や政党の回答を簡単に分析してみたが、各システムによって争点の設定方法に違いがあり、また各党の回答も異なることがわかる。ボートマッチシステムに興味を持って、投票の参考にしようという方は、それらのシステムの違いをすこし心に留めつつ利用していただけるとよろしいと思います。

長い乱筆にお付き合いいただきありがとうございました。